オーストラリアのウルル(エアーズロック)は、永久に登山が禁止されました。
危険な急斜面の1枚岩を歩くウルル登山。
滑落による死亡事故が30件以上。
天候条件により入山できる確率は、わずか33%にすぎません。
もう二度と叶わない、登っておいて良かった世界遺産です。
この記事では、先住民族アボリジニの歴史と、登山禁止になった理由、そしてウルル山頂からの景色を紹介します。
一枚岩のウルル
砂岩層の一枚岩
エアーズロックは、オーストラリア中央部に位置する巨大な一枚岩で、現地アボリジニの言語で「ウルル(Uluru)」と呼ばれています。エアーズロックという名称は、イギリスの探検家ウィリアムズ・ゴスが命名したものです。
オーストラリア ノーザンテリトリーのウルル=カタジュタ国立公園にあり、5億年前に地殻変動で形成された一枚岩は、7,000年前に現在の姿になりました。その高さ約348mは、東京タワー(333m)や、エッフェル塔(324m)に匹敵するものです。地表に見えるのは全体の5%だけで、周囲の長さ約9.4km、地下約5~6Kmにも達すると言われています。
地表からほぼ垂直に無数の縦縞を形成した砂岩で構成され、鉄分を多く含むことから日光の反射で赤色に見えるのが特徴です。ちなみに、世界最大の一枚岩は、オーストラリアのマウント・オーガスタ(ウルルの2.5倍)で、ウルルは世界で2番目の大きさです。
ウルル=カタジュタ国立公園内には、もうひとつカタ・ジュタ(マウント・オルガ)という大きな岩が存在します。ウルルとカタジュタは、元は巨大なひとつの岩山で、雨風に浸食されて現在の姿になったと言われます。
世界複合遺産
自然美と動植物の進化において重要なプロセスを示したことより、1987年に世界自然遺産に登録されました。また、5万年前から住み続ける先住民族アボリジニが、過酷な自然環境の中で伝統的な生活と文化を維持し続けていることから、1994年に世界文化遺産に登録されました。そして、自然遺産と文化遺産に指定されたことから、世界複合遺産に登録されました。
世界複合遺産としては、「マチュピチュの歴史保護区(ペルー)」「ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩窟群(トルコ)」「メテオラ(ギリシャ)」など39件が登録されています。しかし、複合遺産に登録されているのは、世界遺産全体の3%しかありません。
先住民族アボリジニ
アナング族
アボリジニは、オーストラリア大陸およびその周辺の島々に約5万年前から住んでいた先住民族で、彼らの歴史は非常に長く、独特の文化を形成してきました。
ウルルは、アボリジニのアナング族にとって極めて神聖な場所にあたります。数多くの伝説や儀式に関わり、彼らの「ドリームタイム(Dreamtime)」に基づく神話が刻まれた洞窟や岩絵が多く点在しています。ドリームタイムは、宇宙の創造や彼らの文化的・精神的な価値観を説明する重要な概念です。
また、約250の異なる言語を話し、それぞれが独自の文化や伝統を受け継いできました。
アボリジニの歴史
- 1600年代:17世紀にオランダその他の探検家がオーストラリアを訪れましたが、本格的な影響はありませんでした。
- 1788年:イギリスががシドニー湾に最初の植民地を設立。これ以降、アボリジニとヨーロッパ人の間で深刻な衝突が始まりました。
- 土地の奪取と影響:イギリス人はアボリジニの土地を「無主の地」と見なし、先住民の権利を無視しました。これにより、アボリジニは土地を失い、生計手段を奪われました。
- 疫病と暴力:ヨーロッパ人が持ち込んだ疫病(天然痘、インフルエンザなど)により、多くのアボリジニが命を落としました。また、武力衝突や虐殺も頻繁に行われました。
- 文化の抑圧:アボリジニの言語や文化は弾圧され、多くの子どもたちが家族から引き離される「盗まれた世代(Stolen Generations)」の悲劇が発生しました。
- 20世紀半ばの変化:1960年代から、アボリジニの人々は市民権や土地権の回復を求めて闘争を始めました。
- 1967年の国民投票:アボリジニを正式にオーストラリアの国勢調査に含め、連邦政府が彼らの問題に対応できるようになりました。
アボリジニ土地権利法
- 1976年:アボリジニ土地権利法制定。しかし、ウルルは対象から除外されました。
- 1983年:オーストラリア政府は、ウルル所有権を伝統的所有者に返却することを宣言。
- 1985年:所有権を先住民族に返却しました。しかし、2084年まで一帯の土地を、オーストラリアにリースすることになっています。
- 1992年:マボ判決で、先住民の土地権が初めて法的に認められました。無許可で立ち入った場合は、罰金が科せられます。
アボリジニ土地権利法は、オーストラリアの歴史的な不正を修正し、先住民の尊厳と権利を回復する重要な一歩として評価されています。一方で、アボリジニの人たちが土地を所有しても、開発に必要な資金や支援が不足しているケースが多く、経済的に自立することが難しい状況もあります。
ウルル登山
登山の概要
麓から山頂まで、最大斜度46度の鎖場をのぼる往復約2時間の登山です。1950年以降、日本人を含む37人の死亡事故が発生しています。その原因は、強風や突然の雨により、滑りやすい斜面から転落したり、酷暑の登山で心臓発作や熱中症で死亡した人が含まれます。宗教的理由から、撮影禁止や立入禁止区域も多く存在します。
登山の天候条件
入山は気象条件に左右され、晴天でも風が吹く場合は禁止になります。入山できる確率は、わずか3分の1程度です。
- 気温:最高気温36度以上に予想された場合、朝8時に閉鎖。
- 風:2500フィート(25ノット)以上の風が吹くと予報された場合。
- 低気圧:ウルルから50キロ以内の北西または南西に強い低気圧が観測された場合。
- 雨:今後3時間以内に20%以上の確率で降雨が予報された場合。
- 雷:今後3時間以内に5%以上の確率で雷雲の発生が予報された場合。
- 曇天:ウルルの山頂より低く雲が出ている場合。
- 日没:日の出の1時間半以上前および日の入り後1時間半後。
登山口の看板に、日本語で「登らないこと、これがあるべき姿です」と書いてありました。
登山口に、ツーリストを乗せたキャラバンが集まってきました。登山できるかどうかは、現地に到着するまでわからない状況です。さいわい天候条件に恵まれ、わずか3分の1の切符を手に入れました。はるばる日本からやってきた甲斐があるというものです。
最大傾斜46度の鎖場を登り始めます。写真では分かりづらいですが、傾斜46度は崖のように感じられます。
私はトレッキングシューズの準備を怠り、薄っぺらいスニーカーで登山しました。岩の表面が想像以上に滑り、高所恐怖症の私は冷や汗でいっぱいでした。登山ルートに安全対策として鎖が設置されていましたが、それも十分ではなく滑落事故が発生しています。これが、登山禁止理由のひとつです。
右を見ても崖、左を見ても崖。左右の視界から、地表が見下ろせるほど切り立った渓谷が迫り、足がすくみます。
尾根の道標に沿って歩きます。平坦な場所も油断できません。
そして、ウルル山頂に到着。
羅針盤のモニュメントが設置されていました。ここは「地球のへそ」です。羅針盤は、登山者がウルルからの方角を確認できるように設置されたものです。とにかく砂漠の真ん中なので、目印になるものは何もありません。景色と位置関係がわかるように、主要なランドマークの方向が記されていました。
これが地球の原風景。360度の見渡す限り、赤土の砂漠が広がります。爽快!
旅の目的を達成した満足感でいっぱいです。
ウルル登山禁止の理由
2019年10月26日、観光客の登山は永久に禁止されました。
ウルル登山が禁止された理由は、環境保護と先住民アボリジニの文化的・精神的な尊重に基づいています。2019年10月26日は、アナング族がウルルの土地権を回復した記念日と同じ日です。
1. アボリジニの文化的・精神的な重要性
ウルルは、アボリジニの人々にとっての聖地です。彼らも祭祀以外で登山することはありません。 登山行為は、彼らの伝統や信仰を冒涜するとして、長年にわたり観光客に対し「登らないでほしい」と要請していました。
2. 安全性の問題
ウルルの急斜面は、非常に危険で死亡事故が多発していました。 観光客の安全を守るためにも、登山禁止が適切と判断されました。
3. 環境保護
ウルル周辺の自然環境は非常に繊細です。登山による土壌の侵食や、ゴミの放置などが問題となっていました。来訪者を減らすことで、環境保護を優先する決定がなされました。
4. 観光体験の多様化
ウルルを楽しむ方法は、登山以外にも多くあります。周辺を散策するトレイルや文化体験、アボリジニの伝統について学ぶプログラムが提供されており、より持続可能な観光にシフトしています。
リース料と国立公園入場料の一部を受け取っていたため、観光収入が貴重な収入源である先住民にとって、容認せざるを得なかった事情もあったのでしょう。先住民に所有権が返却された現在となっては、登山禁止は当然の結果というわけです。観光客には残念ですが、仕方ないですね。
ウルル観光の楽しみ方
7色変化のウルル
7色に変化する夕陽鑑賞・朝日鑑賞が最大の楽しみ。季節や天候により刻々と色を変える一枚岩は神秘的で、特に夕陽で赤く染まるウルルは感動的ですらあります。世界中から集まったツーリストたちが一同に介し、立食パーティが開催されます。広大な砂漠のなかに、ウルルの存在感だけが際立ちます。
こちらは、翌朝の朝陽鑑賞。逆光に浮かぶウルルのシルエットも壮大です。
星空観測
星空観測も、素晴らしいものです。なにしろ砂漠の真ん中、辺りは一縷の光源も存在しません。夜空に輝く満天の星々に息をのみます。もちろん南十字星が綺麗に観測できます。
オーストラリアは、20以上の世界遺産が登録されています。そのなか、ウルルは世界でも数少ない複合遺産。思い切ってひとり旅をして、ウルル登山に挑戦しておいて良かったと思い返しています。
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