
宮島を訪れると驚くことがある。
関西で見慣れている「奈良の鹿」とは、随分と様子が違うことだ。
奈良の鹿は、鹿煎餅をもらおうとして、観光客を執拗に追いかける。もはや怖いほどの執念である。宮島の鹿は、集団で群れることもなく大人しくて控えめだ。
古より『神の使い』として信仰されてきた奈良の鹿。
一方で野生として自然の生態系に戻したい宮島の鹿。
そもそも奈良の鹿が宮島に持ち込まれた歴史があり、遺伝子が同じながら体格や性格が異なり、行政の方針や考え方にも大きな違いがあるようだ。
奈良の鹿
奈良公園の鹿

- 種類:ニホンジカ(本州に生息する亜種)
- 数:およそ1,000〜1,200頭
- 特徴:1200年前の奈良時代に遡り、春日大社の神鹿として保護されてきた歴史があり、文化財的な存在。人に慣れており、お辞儀をして「鹿せんべい」をねだる行動がユーモアで可愛らしい。これは食べ物を貰うための学習行動と考えられる。
- 管理:文化財保護法で規定された天然記念物。鹿愛護会が保護、管理している。定期的に健康診断や角切りが行われる。
- 鹿は神の使いとして、人間との共存型。
春日大社の鹿寄せ

毎年、春日大社境内地の飛火野で「鹿寄せ」が行われる。ナチュラルホルンの音色で集まってきた鹿が、美味しそうにどんぐりを食べる風景は、奈良の冬の風物詩。油脂が多く栄養価の高いどんぐりは、鹿や熊の大好物である。
1892(明治25)年、ラッパを使って行われたのが始まり。のちに様々な楽器を試した結果、ナチュラルホルンに反応する鹿が多かったそうだ。1頭づつ順番に集まってきても良さそうなのに、なぜか集団でやってくるのが不思議で可愛らしい。
「鹿寄せ」の様子を動画に残しているのでご覧ください。
YouTube動画:【奈良春日大社】鹿寄せと外国人、全員集合!
宮島の鹿
宮島厳島神社の鹿

- 種類:ニホンジカ(西日本に生息する個体群)
- 数:かつては1,000頭近くいたが、現在は600頭前後。
- 特徴:奈良の鹿より痩せて小さい。昔は「神の使い」とされていたが、現在は完全に野生動物として扱われている。鹿せんべいの販売も無くなった。日陰や砂浜で休んでいることが多く、食べ物が少ないため海藻を食べたり、海を泳いで本州に渡る個体も存在する。普段は草木を探して食べるが、観光客の地図や紙袋を食べてしまうこともある。ゴミを食べて体調を崩す個体もいる。
- 管理:改正自然公園法により、餌やりは禁止されている。餌やり禁止の看板が多く立ち、自然な生態系に戻す方針で環境省や広島県が指導。危険を避けるため角切りは行われている。
- 鹿は害獣として、自然回帰型。
宮島の抱える問題
オーバーツーリズム

近年、オーバーツーリズムの問題が叫ばれるなか、宮島も例外ではない。多くの外国人観光客が、宮島口からフェリーに乗って押し寄せる。狭い島内に、星野リゾートや、ヒルトン系ラグジュアリーホテルが開発中だ。観光客が残したゴミを食べる鹿の被害も報告されている。
餌やりの問題

現在は、見かねたボランティア団体が、鹿の生息する山野で一定量の餌を与えている。安全のために角切りも行われる。自然の生態系に戻すと言いつつ、やや中途半端な対応であることは否めない。鹿の数は激減しているが、生き残った鹿の体格は小さくなり、食物の少ない島内で生存できるよう進化しつつあるようだ。海を泳ぐ個体も確認されている。宮島の南部には、まだ観光客の来ない鹿のハーレムが残っている。
鹿の虐待

奈良の鹿が、心無い観光客から虐待されている動画が流れている。執拗に追いかける鹿の顔を蹴る中国人の動画が拡散された。一方で、広島はアジア人から不人気な観光地である。宮島口のフェリー乗り場には、欧米人観光客の比率が高く虐待される個体は少ない。しかし、宮島でも中国人が鹿の角を切ってSNSに投稿するような問題は発生している。
YouTube動画:【宮島厳島神社】奈良と違う鹿と外国人の反応!
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